人間は創り出すものを定めたときに初めて創造性やエネルギーが解放されるようにできている。 そうでないときは常にパワーを温存するように設計されている
9月21日(金)から9月24日(月)まで「創り出す思考」ワークショップに参加してきた。学習する組織の核となる概念である「構造的緊張」を創り出したロバートフリッツの話は一度機会があれば聞いてみたいと思っていたこと、更に今回は「創り出す」ことそのものがテーマで、個人的な関心ともフィットしたので、即断即決で参加することにした。
すぐに活用できる学びもあれば、中長期的に深めていく学びもあり、全ての要素がキレイに脳内に収まった訳ではないが、最もインパクトが大きかった「創造プロセスにおけるマインドセット」について書いてみたい。
なお、これはあくまでワークショップを受けた僕が感じたことや考えたことを記しているのであって、ロバートの発言や考えそのものではないことをお断りしておく。
創造プロセスにおけるマインドセット1「何もないところから始める」
人はいつも自分の頭で考え、発想していると思い込んでいる。しかしほとんどの場合、何らかの常識やものの考え方、経験、フレームワークから考えや発想を創っている。それは「考えている」とは言えず、「自動処理している」ことに実は近い。
ただ、人は自分がそんなことをしているとはなかなか気づけない。自分で考えていると思い込み、ゆえにその枠から抜け出すことができない。これは本当に無意識のうちに起こっていて、染み付いているがゆえにほとんどの人が気づけない。
今回のワークショップの中で、ロバートは何度も何度も「何もないところから始めるんだ」と強調していた。
ワークショップの中でこんな場面があった。あるワークの前に「4つの質問」というツールを学んだ。普通のワークショップであれば、その後、ツールを使った演習を行うところであろうが、ロバートは「実際のコンサルティングの場面では4つの質問を使うことはない」とあっさりと言った。「じゃあ何のために4つの質問のレクチャーがあったんだろう…」と思っていると、続けてこんなことを教えてくれた。
「コンサルティングはあくまでその状況に合わせて行われるものであって、あらかじめ4つの質問を使おうとか、そのような考えのもとで行われるものではない。理論は後知恵に過ぎない」
確かにロバートの言うとおりだ。何かの前提があって、それを持ち込んでしまうことは「創造」ではない。目の前の状況に徹底的に寄り添い、生成的に創り出されるものこそが、本当の「創造」だ。
ツールを学んだ上で、敢えてそれを使わない非合理なプロセスの中だからこそ、このマインドセットを掴むことができた。とはいえ、すぐにこのセンスが腹落ちしたわけではない。どうしても、既成の枠組みから考えてしまう時に、すかさず「何もないところから始めるんだ」と、ロバートが繰り返し伝えてくれたことで、段々と自分に馴染んできた。
この考えはゼロベース思考とも呼ばれており、自分もそれなりに身につけているつもりだった。しかしそれは自分の思い込みだったことが、今回参加してはっきりと分かった。このセンスに気づけたこと、そして重要性を深く認識できたことは、本ワークショップで得た成果の1つだ。
創造プロセスにおけるマインドセット2「不の解消ではなく、望む結果にフォーカスする」
例えば「良い親でありたい」というビジョンがあったとする。一見、このビジョンは素晴らしいものであるように思えるし、大抵のコーチングセッションでは「良い親ってどんな親?」というような問いかけからスタートしていくだろう。
ロバートから言わせると、この場合、そもそもビジョン自体が不適当だ。
「良い親でありたい」は「望む結果」ではなく「自分」に焦点があたっている。この場合、本当に創り出したいものは「良い親であることによって創り出されるもの」だ。
つまり、本当は「良い親」になりたい訳ではなくて「良い親になることで起こる何かを実現したい」のだ。
これに気づかないまま「良い親」になりたいというビジョン設定のまま進んでしまうと、それは本当の真実ではないためパワフルさに欠けるし、「良い親」には何らかの観念が入り込んでいる。(例「子どもの夢を叶える最良の環境を整える親こそが良い親である」。このようなケースの場合、自身の不快な体験によって観念が作られている場合が多い)
観念が入ってしまうと「何もないところから始める」こともできない。
この手の誤りを人は犯しやすい。ロバートはこれを「自意識問題」と呼んでいて、創造プロセスには一切関係が無いと喝破している。
このマインドセットについては、まだまだ熟達が必要だと認識している。創り出すものにフォーカスしているつもりでも、どこかで不の解消が入り込んでしまうことがある。その度に「本当に創り出したいものは何なのか?」を問いかける習慣を身につけていきたい。
創造プロセスにおけるマインドセット3「リアリティーを見よ」
4日間の間、一貫性を持つロバートの言動に注目していた。それこそが創造の秘訣である可能性が高いからだ。
先ほどの「何もないところから始める」もその1つであるが、同じぐらい強調していたことが「リアリティーを見よ」であった。
特に記憶に残っているのが質疑応答のやり取りだ。僕たちはどうしても「こういう状況の時は〜」とか「もしこうなったら〜」という観点で質問をしがちだ。今回もそんな場面が見られた。そして、多くの場合、講師やファシリテーターも、ついついその質問を真に受けて乗っかってしまいやすい。相手に貢献したいという願いがあるからだ。
この点、ロバートは全く異なる振る舞いをしていた。仮想的な状況や前提を置いた質問があると「それは実際に経験したのか?」と確認し、実際に起こっていないことがわかった時点で質問に答えるのを止めていた。実際に起こっていないことを扱っても意味がないからだ。
それだけリアリティーにこだわる背景には、リアリティーと創り出したいものの間に生まれる緊張構造こそが創造を生み出す(構造的緊張)という考えから来ている。創り出したいものを明確にすることも大事なのだが、同じぐらい現実を現実のまま扱うことも大切なのだ。
人はついつい、自分の考えや前提を入れて現実を扱ってしまう。ロバートは現実をただ現実として扱う姿勢を徹底的に取っていた。
以上、創造プロセスにおける3つのマインドセットは、特別な要素は何も含まれていない。このマインドセットは、人がよく犯してしまいがちな思い込みを修正してくれる規律(ディシプリン)として機能するのだ。